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心不全は、すべての心疾患が最終的に到達する病態であり、心血管系・内分泌系・免疫系など多くの生体内の調整機構の異常を伴う複雑な症候群であることが近年わかってきた。
すなわち、心不全とは病名でなく、心臓がポンプとしての役割に変調をきたした状態をさす。
心不全をきやす原因疾患としては、心筋梗塞や心筋症、弁膜症など、さまざまなものがある。

●病態生理
心不全は、心筋の収縮力が低下することにより、心拍出量が低下した状態である。
心不全において左室駆出機能が低下すると、生体は前負荷を増加させて心拍出量を維持しようとする。
その結果、左室拡張終期圧(LVEDP)は上昇し、左心不全の症状が出現すうrことになる。
このとき、肺にうっ血がおこり、呼吸困難を呈することとなる。
これが典型的な左心不全である。
一方、おもに右室の心筋収縮力が障害を受けると、静脈系にうっ帯が生じ、浮腫や肝腫大を生じる。これが右心不全である。

●原因
心臓は外的なストレスに対して、心肥大、リモデリング(再構築)、あるいは修復・防御がお互いにからみ合いながら機能を維持しようとする。

心臓は血行動態的な負荷に対して、まず肥大でもって対応する。
心筋はサイズを大きくして単位重量あたりの心筋収縮能を保とうとするが、さらなる負荷の増大によりその限界が破られた時、その代償機構は破たんする。今日では、心肥大から心不全に移行する際のメカニズムについて盛んに研究が行われており、関与する因子が明らかになっている。

●心機能の生理学的因子
心機能を左右する因子には、①心筋の収縮力、②前負荷、③後負荷、④心拍数がある。
この4つの因子は、心機能を保つために相互に密接に関連し合っている。

①心筋の収縮力
心不全は、まず心筋が損傷され、その収縮力が減少し、心拍出量が必要以下に低下した場合に生じる。
心筋の損傷には、虚血または毒素などによる心筋細胞レベルのものと、圧負荷や容積負荷などによる心筋肥大や線維化によって、心室全体に影響を及ぼすものがある。

②前負荷
前負荷とは、心筋が収縮する直前の拡張終期に心室筋に加えられている負荷のことをいい、拡張終期容積・拡張終期圧、または充満終期において心室壁筋課せられた伸展などの用語であらわされる。
心不全の特徴であるナトリウム(Na)および水分の貯留は、前負荷に大きな影響を与える。
ナトリウムと水分貯留には、いろいろな腎因子が関係している。
すなわち、
①心拍出量の低下に伴って腎臓や他の臓器への灌流血液量が減少する。
②交感神経系の緊張に伴って血管収縮がおこり、糸球体濾過率を低下させる
③レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系を刺激して、腎臓の遠位尿細管~集合管におけるナトリウムの再吸収を増加させる、などの生体反応の結果、ナトリウムおよび水分の貯留をきたし、血管内血液量を増加させる。このナトリウムおよび水分の過剰は、全身の静脈を拡張させ、静脈圧を上昇させて浮腫を形成するとともに、一方では、機能低下をきたした心臓に容積増加による負荷をあたえる。
すなわち、心室の充満期容積増加、または圧増加となってあらわれる。
このような状態になると、心臓の代償機構がはたらき、必要な心拍出量を維持するために、予備力を動員する。
この代償機構はフランク-スターリング機序とよばれている。
この原理は、拡張した心室は心筋線維の伸展を増すことによって、強い収縮をおこすというものである。
すなわち、心室の大きさが大きくなるほど、心筋線維が伸展し、拡張期容積を増して拍出量を増加させる。
心筋が伸展の増加に伴って収縮力を増加させる能力があるかぎり、この代償機構が作用する。
心拍出量と、心室充満期圧または容積の増加の関係を図示したものが、フランク-スターリング曲線である。
心室充満期圧または容積が増加すると、心拍出量が増加する。
心筋線維が収縮力を増加させることができる間は、その関係はほとんど直線的である。
しかし、収縮力を増加できなくなったり、伸展に対して生理的限界に達したり、さらに収縮力に障害があったりすると、その曲線は平坦になり、やがて下降する。
心室充満期圧または容積がさらに増加すうrと、心拍出量は低下する。心不全では、心筋の障害で予備力が減少しているため、正常心よりも心拍出量が低下していることがわかる。

③後負荷
後負荷とは、収縮期において、心室から大動脈に血液を拍出する際に心室筋に加わる負荷のことをいい、最大収縮期血圧・末梢血管抵抗、心室壁に課せられた張力などの用語であらわされる。
末梢血管抵抗の増加には、交感神経が大きな役割を果たしている。
 
④心拍数
心拍数が増加すると、心周期における拡張期は短くなり、拡張期流入血液量が減少する。
また心拍数が極端に減少すると、必要な心拍出量を維持することができなくなる。
このように心不全の病態生理には、心臓の収縮力・前負荷・後負荷・心拍数の4つの因子が密接に関連しあっており、そのうち1つだけが関係するということはない。したがって、治療も総合的に考えていく必要がある。

●フォレスター分類
心不全の病態の把握には、スワン-ガンツカテーテルを用いて心拍出量と肺動脈楔入圧を測定し、肺うっ血ならびに心拍出量低下の有無から血行動態を4群に分類するフォレスター分類が有効である。

(2)症状
①呼吸困難
呼吸困難とは、呼吸に努力を要する状態をさし、左心不全の徴候である。
軽症では労作時の息切れであるが、健常人でも普段運動をしない人は、少し走ったりすると息切れするため、ふだんと比較して判断することが必要である。重症になると、安静時の呼吸困難、起座呼吸となる。
座位や立位では、重力の影響で下肢や腹部の血液が増加しているが、仰臥位をとると心臓への血液環流が増加する。
心不全では、この増加した血液を駆出することができないため、肺うっ血を生じる。
このとき患者は、座位をとることで心臓への血液環流を減少させ、呼吸を楽にしようと試みる。
これを起座呼吸と呼び、重症心不全となると、一晩中座位をとることになる。

②心臓喘息
夜間睡眠中、突然呼吸困難の発作をきたす。気管支喘息のような喘鳴を伴うことが多いので、心臓喘息とよばれる。
重症の左心不全が存在することが疑われる。

③せき
心不全では、呼吸困難と同じ機序で肺うっ血によるせきを生じることが多い。

④易疲労性
心不全患者において、運動耐容能が減少する、つまり易疲労性の機序として大きなものは、肺うっ血によるものと、心拍出量の減少に伴う骨格筋への血液不足である。

⑤浮腫
心不全患者では、静脈圧の上昇と、ナトリウムの貯留に作用する体液因子により浮腫が生じる。
日中に座位や立位をとっている場合、夕方になると足背などに生じる浮腫が増悪し、夜間就寝後の翌朝に浮腫は軽減する。
顔面や上肢の浮腫は、心不全末期までは少ない。

⑥夜間の頻尿
心不全患者は、日中は座位をとっていると、重力による静脈還流の減少によって心拍出量が減少し、尿量が減少する。
夜間安静をとることによって、腎血流量が増加し、その結果、尿量の増加をもたらす。

(3)所見
①頻脈
1回拍出量の低下を代償するため、あるいは交感神経の興奮ぬより、頻脈をきたすことが多い。

②肺ラ音
吸気の末期に聞こえる水泡性ラ音(湿性ラ音)が特徴である。
原則的には両側肺下部から聴取される。
減弱して聞こえる場合、その部分に胸水が貯留していることがある。

③心音(Ⅲ音・Ⅳ音)の聴取
通常、健常成人では聞かれない、馬の駆け足のような莾馬調律(ギャロップリズム)となる。

④胸部X線写真
通常、不全心はリモデリング(再構築)により左室内腔の拡張をきたす。
したがって、心胸比(CTR)の増大を呈することが多い。
肺野は、肺うっ血によりX線透過性が悪くなるため暗くなる。
急性肺水腫の場合、両側肺部門に左右対称性の蝶形の陰影がみられることがある。
また、胸水の貯留があれば、左右肋骨角が鈍となったりする。

⑤血液ガス分析
左室不全では、心拍出量が低下し、肺静脈圧が上昇する。
肺毛細血管圧が著しく上昇すると、肺の水分の増加、肺コンプライアンスの低下を引き起こす。
左室不全による肺静脈高血圧および肺浮腫は、換気/血流比を変化させる。
酸素化されていない肺動脈血が、換気されてない肺胞で肺静脈に移行するため、肺毛細血管における酸素分圧(Po₂)は低下する。
このため動脈血ガス分析では、動脈血酸素分圧(PaO₂)の低下と、多少の呼吸性アルカローシスがみとめられる。
このように左心不全時にはPaO₂値に注意が必要である。
通常、PaO₂の測定は、観血的にとう骨動脈などの穿刺によって採取された動脈血も用いて行われるが、患者の苦痛を伴うため、近年では爪の毛細血管を利用して酸素分圧を測定するパルスオキシメーターがよく用いられている。

⑥神経・内分泌因子
血中の神経・内分泌