①乳幼児期の各発達段階における身体的・精神的・運動機能的特徴
乳児
<身体的特徴>
・体重
乳幼児は、新生児期の生理的体重減少から回復した後、目覚ましい身体発育をとげる。乳幼児身体発育調査によれば、出生体重中央値は男児3.00kg、女児2.95kgであるのに対して、生後3~4か月ではその約2倍、1年では約3倍になる。とくに、月年齢が小さい子どもほど1日の体重増加は大きい。
・身長
乳児の身長は前半期に著しいのびをみせる。
出生児の身長の中央値である男児49.0cm、女児48.5cmに比較して、出生後1年では、男児75.4cm、女児73.8cmと出生児の約1.5倍になる。
・頭囲、大泉門
頭囲も乳児期に著しく発育し、出生時の中央値は男児33.5cm、女児33.0cmであるのに対して、1年で男児46.2cm、女児45.0cmとなる。
頭囲は脳の重量とともに乳児期に著しく増加する。また、大泉門ははじめの数か月は増大するが、その後は縮小して1歳半までに閉鎖する。
大泉門はさまざまな健康問題における重要な観察点となる。
大泉門の膨隆は髄膜炎や脳炎、脳腫瘍などによる脳圧亢進の症状として、大泉門の陥没は脱水症の重要な徴候として、それぞれ注意が必要である。
・胸囲
出生時の胸囲の中央値は男児が32.0cm、女児が31.8cmで、頭囲よりやや小さいが、その後の、胸内臓器の発育と胸部の皮下脂肪の増加に伴って増加し、頭囲より大きくなる。
・身体発育の推移
乳児の身体発育を10年前と比較すると、体重・身長・胸囲の発育値にわずかな減少がみとめられる。
妊婦の適切な体重コントロールに関する考え方が普及して、出生体重そのものが減少したことなどが原因と考えられている。
<精神的特徴>
乳児はかなり早い時期から、人に対して笑う、声を出すなどの社会的な反応を示し、やがて母親に対する特別な反応へと発達をとげる。
生後2~3か月の乳児はひとりにされると不きげんになって泣き、抱かれてあやされると泣きやみ笑う。
この段階では母親とそれ以外の人を区別することはできない。
生後6~7か月ごろは、特定の人と見知らぬ人を識別するようになる。
その後、母親の姿を探す、顔を見てほほ笑む、喃語を話すなどの愛着行動があらわれて、その場を離れると不安になって泣いたり、探し求めたりする(分離不安)。
また、見知らぬ人に対して顔をこわばらせて激しく泣くなどの不安の感情を示す(人みしり)。
このように、乳児の母親に対する反応は、1年間に大きく変化する。
乳児期における情緒の分化は未熟で個人差もある。
不快な刺激に対して涙を流し、筋肉を緊張させて激しく泣くことは、すでに新生児期からみとめられ、生後6か月ころより乳児は恐れの感情を示すようになる。最初は大きな音や急に身体を動かされることに対して、また、生後6~7か月ごろになると、見知らぬ人に対して恐れをいだく。
一方、快の感情は不快な感情に比較して発現がややおくれ、生後2か月ごろから泣きとは違う、おだやかな発声や微笑としてあらわれる。
<運動機能的特徴>
*姿勢保持と移動
新生児期から乳幼児期には、姿勢保持などに必要な反射運動がみとめられ、これが運動発達の第一段階となる。
その後、この反射が消失することで随意運動が円滑に行われるようになる。
・首のすわり
乳児初期における姿勢保持の最初の課題は首のすわりである。
新生児は仰臥位で寝かされると、頭は左右どちらかに向いているが、生後1か月ごろの乳児は短時間であれば頭を正中に保つようになる。
さらに、2か月の終りごろには、仰臥位で頭の向きをコントロールし、腹臥位では頭部を少し上げることができる。
生後4か月の乳児は、腹臥位にすると上肢で支えて頭と肩を上げて、胸部を床から離していられる(首のすわり)。
・寝返り
乳児は首がすわることによって、さらにその後の運動機能の発達をとげる。
自分で仰臥位から腹臥位にかわるようになる(寝がえり)のは、生後5か月で85.2%、生後6か月で97.1%である。
・おすわり
生後6か月ごろには手をつけば少しの間は座位を保つことができ、生後8か月では90.7%が両手をつかないで1分以上座っている(おすわり)。
さらに移動では、生後8か月で82.9%、生後9か月で94.8%が、手と足ではって前進する(はいはい)。
なにかにつかまってひとりで立ちあがること(つかまり立ち)ができるのは、生後9か月で81.5%、生後10か月で95.4%である。
・ひとり歩き
さらに、筋肉の発育や運動神経、平衡感覚の発達によってひとり歩きが始まる率は、1歳1か月で80.5%、1歳3か月で93.8%に達する。
・推移
乳児の姿勢保持・移動能力を10年前の結果と比較すると、全般的に到達年齢がやや遅い傾向がみとめられるが、これについてはより長期的な評価が必要である。
*手先の微細運動
手先の運動発達は、中枢から末梢の方向に進む。
つまり、腕や足全体の運動から始まり、手掌の運動、さらには指先の運動へと進む。
生後2~3か月ごろまでは、手掌に物が触れると強く握り返す反応(把握反射)がみとめられるが、生後3か月を過ぎると、乳児は玩具などを見て、その方向に手を伸ばすようになる。
これは物がある方向・距離を知覚することと腕や手を動かすことの協応動作であり、生後5か月ごろにはある程度正確にできるようになる。
随意的に物を握るころには、手の把握反射が消失する。
物の把握方法は生後6か月ごろまでは手掌全体で包むように行うが、しだいに指先を使うようになり、生後12か月では完全に指先でつまむことができる。
幼児
<身体的特徴>
・体重、身長
幼児期は、乳児期に比べ身体発育の速度はいくぶんゆるやかになる。
体重は2歳半ごろに出生時体重の約4倍、4歳ごろに出生時体重の約5倍となる。
また、身長は3歳半~4歳ごろに出生時の約2倍となる。
身長にたいする頭長(頭頂から下顎の下端まで)の割合は、新生児では約1/4であるのに対して、2歳児では1/5、成人では1/7前後と減少する。
これは脳の発達が胎児期から乳幼児期にかけて急速に進むことと対応している。
・大泉門
大泉門は1歳半ごろまでに閉鎖する。
大泉門の閉鎖が早すぎる場合は小頭症を遅すぎる場合は水頭症や骨の発育不良の可能性があるので注意が必要である。
・身体発育の推移
幼児の身体発育を10年前と比較すると、乳児期と同様に体重・身長・胸囲の発育値にわずかな減少がみとめられる。
<精神的特徴>
幼児期の思考には自己中心性がみとめられ、他者の視点からものごとをとらえることはまだ難しい。
幼児がなにかひとつのことに注意を向けていられる時間は短く、さまざまなことに興味が移る。
3歳児が注意を持続できるのは10~15分くらいであるが、年齢とともに持続時間が長くなり、5歳ごろになると30分ぐらいは注意を持続できる。
*愛着形成と分離不安
乳児期にみられた母親への愛着行動は引き続き2~3歳ごろまでみられる。
この時期は母親という安全な基地を確認することで次の探索行動に向かうことができる。
つまり、母親からの自立の願望と離れることへの不安が共存する時期ともいえる。
3歳を過ぎる頃には、母親と自己が別の存在であることを知的にも情緒的にも受け入れて、内面に安定した母親のイメージを確立する。
したがって、乳幼児期に入院などで長期にわたる母子分離を体験すると、母子関係に深刻な問題が生じる場合がある。
このような場合は、親と子が相互のきずなを確認できるような時間をもち、家庭で使っていた人形などを持ち込むことで安心して過ごせる環境を整えることがたいせつである。
*自律性、自発性
母親への安定した愛着を形成した子どもは、幼児期に親のしつけのもとに生活習慣を自律的に行うようになる。
幼児は自分自身が意志のある独自の存在であることを発見するとともに、親のしつけを主体的に受け入れて、外部と内部の調和をはかる。
さらに、周囲に対して興味や関心をもち、目的のために自発的に動き、まわりの子どもと積極的に遊ぶようになる。
このころに、痛みなどの苦痛を伴う体験を重ねると、幼児は自分でコントロールできることの限界を知って自尊感情がおびやかされる可能性がある。
したがって、自分で遊びの内容を決めるなど、生活のなかで自己決定できる機会をできるだけふやして、情緒や社会性の発達への弊害を緩和しなければならない。
*感情の分化
子どもの感情は乳児期から2歳ごろまでに基本的な発達をとげて、その後さらに分化に、5歳ごろには成人にみられる情緒がひととおりそろう。
幼児期の情緒の分化は、言語や言語以外の表現が未分化の全体的なものから、部分的で特殊なものに変化することで確認できる。
不快な刺激に対する反応は、生後3週ごろより、顔を赤らめ、筋肉を緊張させて泣く様子がみられる。
さらに、怒り(3か月)、嫌悪(5か月)、怖れ(6か月)、嫉妬(18か月)などに分化する。
一方快の反応は発現がややおくれて、2か月ごろからきげんのよいときの発声や微笑などであらわれ、得意(7か月)、大人にたいする愛情(12か月)、子どもに対する愛情(15か月)、喜び(20か月)に分化する。
<運動機能的特徴>
*姿勢と粗大運動
姿勢の保持や粗大運動は乳幼児期に著しく発達する。
1歳3か月ごろまでに、多くの子どもは歩行を始め、1歳半ごろには前方だけでなく横や後ろへの歩行もできるようになる。
さらに、1歳9か月ごろには手すりをもって階段をのぼることができるようになり、2歳~2歳半ごろには、両足をそろえながらではあるが、手すりをもたずに階段を昇降できるようになる。
また、このころには、ころばずに上手に走ることもできる。
3歳になると片足で数秒立つことや三輪車にのることが、4歳では片足とびや足を交互に出して階段を降りること、ボールを投げることが、5歳ではスキップなどが出来るようになり、より複雑な運動や道具を使う運動へと進む。
*手先の運動
幼児期は腕や手掌、足全体の動きから、手足の細かい運動へと発達が進む。
1歳半で2つの積み木を積み重ねることができるようになり、2歳では自分で絵本のページをめくることができる。
3歳ごろにははさみを使ったり、8つの積み木で塔をつくったり、円を描写したりする。
4歳では四角を模写し、簡単な人をかけるようになる。
このような微細運動の発達は、経験や興味の度合いによって個人差がある。