<経カテーテル肝動脈塞栓術とは>
腫瘍を栄養している動脈を塞栓物質によって閉塞させることにより腫瘍を阻血、壊死させる治療法。
治療の危険性が少ないため、肝機能が悪く切除術ができない場合や、切除後の再発肝がんに対してなど適応範囲が広い。
通常、右大腿動脈を穿刺し、セルジンガー法でのカテーテル操作により塞栓物質を注入する。
塞栓物質はゼラチンスポンジが用いられる。
抗がん薬を混入した油性造影剤リピオドールを注入後に、ゼラチンスポンジで塞栓するLp-TAEが行われるようになった。
マイクロカテーテルの進歩により、末梢まで選択的にカテーテルを誘導できるようになり、亜区域または亜亜区域に限局している肝細胞がんに対する治療法として、胆がん区域塞栓術(SegmentalLp-TAE)も開発され、優れた治療成績が得られている。
TAE終了後は完全に止血するために、翌朝まで床上安静とし、刺入部位を圧迫する。
塞栓や注入した造影剤・抗がん薬により腹痛、悪心・嘔吐などの症状がみられる。
画像上でがん細胞の完全壊死がみられない場合は、繰り返し施行される。
<方法>
① 2~3日前に、必ず家族付き添いのもとで患者に説明し、承諾を得る。
② 術前処置として、午前中に施行する患者は朝食止めとする。
止血薬入り点滴にて血管確保し、緊急輸血にも対処できるようにする。
前与薬として鎮痛・鎮静薬を投与する。
③ カテーテル挿入穿刺部位をイソジンなどを用いて消毒する。
穿刺部位の皮内から動脈周囲を局所麻酔する。
その後、皮膚に小切開を加え、動脈拍動を確認しなから穿刺し、ガイドワイヤを挿入する〔セルディンガー(Seldinger)法〕。
④ 血管カテーテルをガイドワイヤの尾側よりかぶせて進めていく。
通常、大腿動脈→腹部大動脈→腹腔動脈→肝動脈とカテーテルを進め、できるだけ腫瘍責任動脈近傍まで到達させ、抗悪性腫瘍薬を混合した塞栓物質を注入し塞栓する。
⑤ 治療が終了したらカテーテルを抜去し、動脈穿刺部中枢の拍動を確認し圧追止血する。
通常、約10分間の圧迫の止血を確認し、圧迫包帯を施し6時間前後の絶対安静とする。
⑥ 術後は原則として、翌朝まで床上安静とする。
また、採血により、血算、凝固、生化学に変化がないか確認する。
<合併症>
TAEの術中合併症として、塞栓物質注入により非がん部阻血による疼痛があり、鎮痛薬の投与を考慮する。
また、造影剤や塞栓物質などによるアレルギー反応などにはステロイド薬の投与などで対処する。
また、血管カテーテルやガイドワイヤーによる血管内膜損傷には十分な注意が必要である。
術後合併症としては、一過性の嘔吐、発熱、上腹部痛がある。
これらの症状は個人差はあるが必発であるため、術前に患者への十分な説明が必要である。
肝機能は一時的に低下するが、術後約10日で術前値に回復することが多い。
重篤な合併症として、塞栓物質が他臓器に流入することによる臓器障害がある。
肺梗塞、脾梗塞、膵壊死、胃・十二指腸潰瘍、脊髄障害などがあり、塞栓物質注入時には、腫瘍内または責任血管内のみに限局しているか注意を要する。
<治療効果判定>
TAE後の治療効果判定は、超音波、CT、MRIによる画像診断と、腫瘍マーカーの推移を総合して行う。
治療効果が不十分な症例や局所再発、肝内転移の出現は、再度のTAE施行やほかの局所療法との併用を検討する。
☆肝動脈塞栓療法を受ける患者のケア☆
肝動脈塞栓療法(TAE)は、血管造影の手技を用いて、カテーテルを腫瘍の栄養血管である肝動脈に選択的に挿入し、油性造影剤、抗がん薬、塞栓物質を混和したものを注入し、肝細胞がんを壊死に導く治療である。
そのため、動脈穿刺・塞栓による副作用、合併症を予測したケアが必要である。
<術前>
患者が治療について十分理解し、精神的に安定した状態で、治療に臨めるよう援助する。
検査の目的、方法、所要時間、副作用、合併症などを説明し、不安の軽減に努める。
検査後の安静について説明し、床上排泄の訓練を行う。必要時、膀胱留置カテーテル挿入について説明する。
前日は剃毛を行う。また、粘着性の強い絆創膏で圧迫固定するので、パッチテストも行う。当日は安静を保ち、禁飲食とする。
術衣に着替え、血管確保する。
前排尿をすませ、バイタルサインをチェックし、移送の準備を行う。
指示により、前投薬を行う。
<術後>
治療後の副作用、合併症などを予測し、早期に対処することで、精神的・身体的苦痛の軽減に努める。
①動脈穿刺後の出血
経時的に、バイタルサイン、穿刺部の出血の有無、疼痛、足背動脈の触知の状態、皮膚の色、冷感の有無などの観察を行う。
24時間床上安静とし、穿刺部の下肢の屈曲を禁止する。
同一体位による苦痛の軽減に努め、腰の下に枕を当てたり、温罨法やマッサージを行う。
ベッド周囲の環境を整え、日常生活動作を介助する。
食事はおにぎりなどの食べやすいものを工夫する。
24時間後、出血、絆創膏かぶれの有無を確認し、異常がなければ安静解除とする。
②血管造影による副作用
造影剤によるアレルギー反応(発疹、掻痒感、低血圧、呼吸困難など)、腎機能障害(尿量、腎機能データ、浮腫の有無)に注意し、制限がなければ飲水を促す。
③動脈塞栓による副作用・合併症
腫瘍の変性、壊死による生体反応として、発熱、腹痛、腹部膨満感、悪心・嘔吐などがみられる。
数日で回復するが、冷罨法や、解熱薬、鎮痛薬、制吐薬の投与などで対処する。
肝機能検査値の一時的な上昇がみられるが、広範囲なTAE後は肝不全に陥ることもあるので、黄疸、腹水、肝性脳症、凝固障害の発生などに注意して観察を行う。
倦怠感、食欲低下に対しては非ステロイド製剤の投与、短期間のステロイド薬の投与を行う。
抗がん薬や塞栓物質が胆管や胃・十二指腸に流入すると、胆肝炎、胆嚢炎、膵炎、胃・十二指腸潰瘍などの合併症を起こすため、発熱や疼痛の増強、遷延に注意する。
肝動脈の塞栓による門脈圧の上昇が原因で食道静脈瘤が悪化することもあるため注意する。
④抗がん薬の副作用
胃腸障害、腎障害、骨髄抑制による易感染状態なとの出現に注意する。
悪心・嘔吐に関しては制吐薬を使用し、嘔吐後は含漱で口腔内を清潔にする。
●参考文献
飯野四郎:消化器疾患、学習研究社、2002