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《血圧低下、ショック》
麻酔が覚醒するのにつれて肺胞換気量が増加し、その結果、血中のCO2濃度が低下し血圧が低下する。
また、この時点での急激な体位変換はショックをまねく。
手術後8時間以内では、手術中の輸液・輸血不足、手術後の創出血の増大、呼吸抑制と酸素不足(麻酔薬、麻薬、筋弛緩剤の大量投与によるもの)、さらに輸液・輸血過剰による心不全や肺水腫、薬物反応などが原因で血圧低下をおこす可能性が強いと考えられる。
手術8時間を経過した以降も血圧低下の可能性を含むものとして、とくに、低体温麻酔、頸部根治手術、直腸癌根治術、胸部手術をうけた患者の手術後出血に注意を要する。
さらに術創痛の増大と鎮痛剤の過剰与薬による呼吸抑制、肺合併症が血圧低下やショックの原因となる。
その他、この時点で血圧低下やショックを招く原因となるものに、術後の脳血管障害、肺塞栓、大きな外傷、熱傷、ドレーンを挿入している患者に多い水と電解質のアンバランス、術後腹膜炎や縫合不全、胃切除後に起こりやすい術後膵炎、副腎皮質ホルモン長期投与患者や副腎疾患のある患者に起こりやすい副腎皮質不全、腹腔内や呼吸器系の手術の感染に起こりやすい細菌毒素によるものなどがあげられる。
術後の患者の最高血圧が90~80mmHg以下となり、十分な尿量が得られなくなるとショックと考え、早急に治療を開始しなければならない。
ショックを長引かせると回復しにくくなり、やがて慢性腎不全、肝障害、脳障害、肺水腫、肝不全をまねく。

〈観察〉
①血圧:麻酔から覚醒し、意識が明瞭になるまでは15分ごと、その後から30分ごと、血圧が安定的で術後出血、呼吸抑制もなければ1時間ごとに測定し、数時間経過し解決目標を達成しているようであれば、適時測定すればよい。
②脈拍数、緊張:血圧が低下すると、頻脈(100/分以下は注意する)で細小微弱となる。
③意識、顔色、冷汗、チアノーゼの有無
④出納バランス:出血量と輸血量、尿量、嘔吐物、ドレーンよりの排液量と輸血量、手術室から患者申し送りを受けるとき、バランスを確認し、outputに傾いているときはとくに輸血・輸液の指示を確実に受ける。
⑤呼吸数、胸郭の動き、呼吸音、呼吸抑制の有無
⑥特有の原因によって起こりやすい場合は、その原因に伴う症状

〈看護処置と教育〉
①回復室より病室ベッドへ移送するとき、衝撃を与えたり急激な体位変換をしない。
②急激な体温低下を避ける。
③酸素吸入
・指示により3~6L/分
④深呼吸を促し、麻酔覚醒を促進させる。
⑤出血が減少しない場合は医師に報告する。
⑥気道閉塞や呼吸抑制を認める場合、医師に報告すると同時に応急処置をする。
⑦点滴の確保と調整
・最高血圧が90mmHg以下の場合、500ml/時、80mmHg以下の場合1000ml/時の割合で輸液量を確保する応急処置をとる。
滴下数計算法(滴下数/分)=
(15~20:1mlあたりの滴数)×注入したい量(ml)/注入にかける時間(分)
・手術創に影響しないかぎり両下肢を持ち、高く挙上する。呼吸抑制のないときにかぎりそのまま上半身を低くする。
⑧家族にショック出現時の他覚症状を教え、看護婦に連絡するように指導する。

《呼吸器合併症》
①気道閉塞
・回復室から帰室術後患者は、麻酔から完全に覚醒してない状態で舌根沈下、気管内挿管抜去後の反回神経麻痺、チューブの圧迫による声門浮腫、吐物、気道内出血や分泌物、唾液などが原因となって気道閉塞を起こすことがある。
気道閉塞による酸素欠乏と炭酸ガスの蓄積は、進行すると興奮、意識消失、痙攣をまねき死に至る。
②呼吸抑制
・麻酔剤、麻薬、脳の手術後の障害などによる呼吸中枢の麻痺、筋弛緩剤の過剰与薬や排泄遅延による呼吸筋麻痺、開胸、開腹手術後の疼痛と不安、気道閉塞による呼吸筋麻痺、呼吸運動の抑制などが原因となって生じ、酸素欠乏と炭酸ガスの蓄積をまねく。
③無気肺と術後肺炎
・気道閉塞、呼吸抑制や感染などが原因となり、肺胞と外気との交通が遮断され肺胞内に空気がなくなり肺がしぼんだ状態になる。
多くはそこに感染を起こして、二次的に術後肺炎を誘発する。術後肺炎はその他、術前の肺炎や気管支炎の悪化により、また吐物、血液および喫煙などで増加した気管支分泌物が肺内に吸引されておこる。通常無気肺は術後36時間以内に発症し、術後肺炎はそれにやや遅れる。
 無気肺は数日で多量の喀痰を排出して急速に回復するが、肺炎、肺膿瘍に移行すれば重篤である。

〈観察〉
①術前指導に対する反応
②麻酔の覚醒状況:呼名反応や応答
③気道閉塞の有無:過呼吸、吸気時に胸郭がしぼみ、腹部がふくらむ努力性呼吸いびき、狭窄音
④呼吸抑制の有無:徐呼吸(呼吸数12回/分以下)、腹部と胸郭の呼吸運動
⑤喀痰、嘔吐、創痛の有無
⑥無気肺の症状の有無:咳嗽や喀痰喀出の困難、聴診による呼吸音の減弱、消失胸郭の左右差
⑦肺炎の症状の有無:肺雑音、体温、悪寒戦慄、咳嗽、胸痛、嘔吐、肺雑音
⑧酸素欠乏症状、炭酸ガス蓄積症状の有無:興奮、錯乱、過呼吸、頻脈、チアノーゼ、血圧上昇、皮膚・粘膜の紅潮

〈看護処置と教育〉
①術前の禁煙指導
②術前の呼吸訓練
・横隔膜呼吸と口すぼめ呼吸を指導する。これらは腹筋を活用して横隔膜を上下させたり、呼吸筋を訓練し、さらに吸・呼気をゆっくりと遅延させることによって肺の膨張を十分にし、術後に肺での換気を促進させることを目的としている。

③術前の喀痰喀出訓練
・胸腹部の手術では、術創部となる部位を圧迫して動揺を少なくし、効果的に喀出できるよう訓練させる。
④酸素吸入
・指示により3~6L/分
⑤深呼吸、咳嗽を促し、喀出させる。
⑥口腔、気管内の吸引
⑦術創痛に対しては指示により、適宜鎮痛剤を与薬して、呼吸を抑制しないようにする。
⑧喀痰しにくいような場合、吸気を加湿する。(ネブライザー)
⑨2~3時間ごとの体位変換、可能であれば翌日より離床訓練させる。
⑩気道閉塞、呼吸抑制が改善しない場合、医師に連絡する。
・気管内挿管、気管支吸入、気管切開、IPPBなどが行われる。採血(血ガス分析)
⑪無気肺に至っている場合、患肢を上にした側臥位をとらせ、上半身を低くし、タッピングなどをして喀痰を喀出させる。

《創痛》
麻酔が覚醒してくるにつれ、創痛を訴えはじめる。
覚醒途中の不確かな痛みの訴えもあるが、確実な創痛を訴えている場合、我慢させると術後の安静を妨げ、激しい痛みによる呼吸抑制やショックをまねくことになるので、積極的に緩和させるよう対処すべきである。
創痛は、感染が無い限り2~3日も経過すれば軽減、消失する性質のものであり、永眠しない。
ただし、鎮痛剤による呼吸抑制には十分な注意を払うことが必要である。

〈観察〉
①疼痛の訴えの部位、性状、程度:術創痛とその他の痛みも区別する。
②表情、体動、筋緊張の有無
③呼吸運動、血圧

〈看護処置と教育〉
①鎮痛剤使用。無理に痛みを我慢しない。
②創部保護
・寝具による圧迫刺激を避け、包帯の緊迫を避ける。
③体位の調節
・腹部創には両下肢を屈曲
・四肢には高挙して浮腫を避ける。

《急性胃拡張》
術後の胃の運動機能障害、気管内挿管が送り込まれたり、術後空気を飲み込むことが原因となり、術後24時間~48時間に胆汁様の嘔吐をもってはじまる。
高度の脱水から循環動態の急変を招き死に至る。

〈観察〉
①胃チューブからの胃内容物の流出状況
・胆汁様の消化液が流出しないか観察する。
②胃拡張症状の有無
・上腹部圧迫感と鼓音、しゃっくり、嘔吐は口腔内に流れ出るような状態であまりひどくない。
③胃部膨満、腸雑音の有無
・高度になると胃部膨満がおこり、腸雑音が消失する。
④口渇、乏尿
⑤呼吸
・浅表性で促迫する。
⑥血圧、脈拍
・血圧下降、頻脈を呈す。