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《概念》
・椎間板の変性や外傷が転機となり、髄核が線維輪を押し上げ、あるいはこれを破って突出、膨隆することにより発症し、神経根や馬尾を圧迫して神経症状や馬尾症状、すなわち痛みや運動・知覚障害、膀胱直腸症状を現すものをいう。成人男性に多発し、90%以上が腰椎間(L4~L5)、腰椎―仙椎間(L5~S1)に発症する。近年罹患年齢が拡大し、とくに若年層はスポーツ活動中に発症する傾向がある。

《原因》
・退行変性を生じた椎間板に、不用意な姿勢での重量物挙上や外傷を契機として圧がかかり、髄核が線維輪から突出することにより起こる。軽微な外力や体位変換、スポーツを契機とすることもある。

《病態生理》(図1)
・血管により栄養を供給されていた椎間板は、20歳を過ぎると血管支配がなくなる。
また、成人の椎間板はコロイド様物質で、その性質は外液を吸収して内液バランスを維持する。
20歳頃まで約80%以上の水分を含有しているが、加齢とともに脱水が起こり、徐々に線維成分に置換され、椎間板は容積が減じ、扁平化すると同時に亀裂が生じやすくなる。
このように退行変性を起こした椎間板は、外力に対して力の分散が不均等となる。
老化や運動の繰り返しにより、椎間板の変化が加速されるとますます弾力を失い、線維輪の断裂が起こる図1ヘルニアの病態別分類ようになる。
椎間板の中央には柔軟な水分に富む髄核があり、それが線維輪の亀裂を通って突出し、神経根、馬尾を圧迫する。
そのため、強い疼痛をきたしたり、まれに巨大ヘルニアや中心性ヘルニアで、膀胱直腸障害や対麻痺をきたすものもある。

《症状》
①疼痛(腰痛、下肢痛)
・疼痛は程度の差はあるにしてもほとんどの症例でみられ、急性発症は激烈な腰痛、放散痛として始まる。
脊柱の運動・咳・くしゃみ・怒責で疼痛を誘発・増強し、腰痛発作を数回繰り返すうちに下肢放散痛がはっきりしてくる。
腰椎下部から分岐する神経は坐骨神経を形成するので、坐骨神経を主症状とするのもが多い。
神経根炎や硬膜外腔の循環障害といった炎症性要因が加わり疼痛が増強する。

②知覚障害(図2)
・疼痛と同様にヘルニアによる神経圧迫で、その神経支配領域にみられる。
触覚・痛覚障害は、鈍麻から脱失まで程度はいろいろあるが、全症例の80%以上に認められる。
L4-L5ヘルニアでは第5腰神経が圧迫されて、下肢の前外側、足背の内側第1趾に知覚障害が認められる。
L5-S1ヘルニアでは第1仙骨神経が圧迫されるため、下腿の前外側、足背の外側に知覚障害が認められる。

③姿勢の変化および脊柱運動制限
・腰椎の生理的彎曲の減少や消失をみるものが多い。
疼痛を避けるために側彎を呈したり(疼痛性側彎)、軽度の前・側屈位で姿勢を固定していることもある。
脊柱は各方向に運動制限がみられ、運動により放散痛の出現や図2 脊髄レベルと皮膚知覚領域増強を訴えたり、坐位や立位の保持が困難となる症例もある。

④運動障害および筋力低下・腱反射の異常
・足趾の背屈力、底屈力の低下が起こるが、これは長趾伸筋、屈筋の筋力低下による。関節の運動障害は、ヘルニア症状としては重症であり、足関節の背屈が不能となり、いわゆる下垂足が認められる。
・筋力低下は大腿周囲径の計測をすると、患側肢に1~2cmの減少を認めたり、殿筋の筋萎縮や筋緊張の低下を認めることが多い。
・アキレス腱反射の低下または減弱が70~80%の症例で認められる。

《検査・診断》
①腰椎ヘルニア好発高位
・ほとんどがL4-L5椎間板、L5-S(仙骨S:sacral)椎間板に多い。次いでL3-L4椎間板にみられるがまれである。
②神経学的検査―疼痛誘発検査
・下肢伸展挙上検査(SLRテスト)(図3):仰臥位になり、膝を伸展させた状態で徐々に下肢を挙上させていく。
殿部の坐骨神経が伸展されて腰部や下肢に放散痛が認められ、挙上できなくなる。
L4-L5、L5-Sの椎間板ヘルニアで陽性となる。
・大腿神経伸展検査(FNST):腹臥位で股関節を伸展させていく。
鼠径部の大腿神経が伸張され、腰痛、下肢痛が再現される。
L3-L4椎間板ヘルニアで陽性となる。  

図3 下肢伸展挙上検査 
③ヘルニアの責任高位診断
・神経学的に筋力、深部腱反射、知覚障害領域を検査し、ヘルニアの突出部位を推定する。
・図4に腰椎障害神経根高位と神経学的所見を示す。障害神経根の支配する領域に筋力低下などの運動障害や知覚障害が出現する。

図4 腰椎障害神経高位と神経学的所見
④画像検査
1)単純X線検査
・変性した椎間板を反映した椎間板の狭小化がみられる。
また、椎間板が異常に可動し、椎間板の後方が開大することもある。
椎体へのヘルニア所見としてはまれではあるが、シュモール結節(髄核が線維輪を破壊して椎体内に侵入したもので、小指頭大の陰影欠損像を認める)や、椎体辺縁遇角解離(成長期に環状骨端が椎体から剥がれて癒合不全となったもの)がみられることがある。

2)MRI検査
・椎間板の変性を知るために外来で行うことができる侵襲の少ない検査である。
変性した椎間板は、水分を強調するT2強調画像において黒く低輝度で示される。
さらに、T1強調画像では髄核が後方へ脱出し、頭側や尾側に迷入する様子が観察される。
・また、断面像では脱出髄核が神経根を圧迫している様子が認められる。脱出の位置によって、中心型、片側型、脊柱管の外に出る外側型に分類される。

3)脊髄造影(ミエログラフィ)・CT検査
・腰椎麻酔と同様の方法で、腰部からクモ膜下腔に針を穿刺し、脊髄腔専用の水溶性造影剤を注入する。
・通常は、太い脊髄硬膜の幹に枝状に左右に神経根嚢が描出されるが、圧迫を受けるとこれが描出されない。
CT検査により、脊髄硬膜が前方から突出した椎間板により圧迫を受けているかどうかが確認される。
・造影剤によるアレルギーは頻度は少ないが、アレルギーを起こすと重篤な症状となるので注意する。
・硬膜穿刺による頭痛を生じることがある。(疼痛、悪心、めまい、しびれを観察)

4)椎間板造影(ディスコグラフィ)・CT検査
・椎間板の変性の状態を確認するために、椎間板内に針を刺入して造影剤を注入する。
透視下に椎間板からの漏出像を確認後、CT検査で脊柱管内の椎間板脱出状況を検討する。
・椎間板不安定症での椎間板の変性の確認や、治療目的の椎間板内ステロイド注入などにも用いられる。

《治療》
①保存的療法
1)局所安静
・腰椎椎間板ヘルニアは、腰部での局所刺激を軽減するために、簡易の腰部固定帯を巻くことによって局所安静を保つ。
・腰椎椎間板ヘルニアでは、腰椎の運動制限効果は少ないが、腹圧を高めるように下腹部を中心に固定することが重要である。

2)薬物療法
・椎間板ヘルニアの初期には、神経根の機械的圧迫のみでなく、局所の炎症所見がみられる。
このため、初期疼痛時に消炎・鎮痛薬を投与すると有効である。
・ときには消化器への副作用が少ない坐薬や安定剤、抗うつ薬を使用することもある。

3)牽引療法
・外来では、電動式牽引機器による10~15分の間欠的牽引を行う。
・これは主に椎間板を開大し、椎間孔における神経根の圧迫を軽減させる目的で行う。
牽引力は15~30kgが目安である。
・入院して、重錘で牽引する場合は1回1~2時間程度
で、1日6~8時間を目標に、安静を保つ目的でベッド上で行う。
図5 セミファウラー位
・腰椎では上半身を30°挙上したセミファウラー位で、
股関節、膝関節を30°ぐらいに屈曲して行う(図5)。
牽引力は6~10kgを目安とする。

4)仙骨硬膜外ブロック
・外来では腰痛の強い場合に腹臥位となり、仙骨裂孔から硬膜外に局所麻酔薬を注入する。
・高度に神経を圧迫を受けている場合は、疼痛が増強したり麻痺を生じることもあるので、20分ほど休憩して状態を観察する。

5)持続硬膜外カテーテル挿入
・腰痛が強く筋力の低下がみられないときに、疼痛を軽減する目的で行う。

②外科的治療
1)前方固定術(図6a)
・椎間板変性が著名な患者で腰痛を強く訴える症例に対して前方固定が行われる。
自家腸骨を用いた固定が行われるが、移植骨の脱転予防のため、臥床期間が長くなる傾向がある。

2)後方椎弓形成術(図6b)
・脊髄圧迫の軽減により脊髄症は軽快し、ヘルニア塊が自然に消滅することもあるが、ヘルニア塊を十分に摘出することは難しい。
症状の軽減をみないときは前方固定術を追加することがある。
・骨移植を行わないので、安静期間が短期となる利点があり、高齢者などでは有効である。

3)経皮髄核摘出術(図6c)
・手術と椎間板注射の中間に位置する治療法で、椎間板注射の要領で、椎間板の後側方に鉗子の通過する筒を挿入し、椎体間の変性した髄核を摘出する。
・脱出したヘルニアを直接摘出することはできないので、適応には慎重な検討が必要である。

4)レーザー蒸散法
・経皮髄核摘出術と同様にアプローチして、レーザーを用いて、髄核を熱で蒸発させて縮小させる方法である。

5)後方椎間板摘出術(Love法:図6d)
・腰椎では、脊髄硬膜の牽引操作が可能であるので、図6後方から椎弓間を展開し、黄靱帯と一部の椎弓を切除して
脊髄硬膜および神経根を内側に避け、脱出した椎間板ヘルニア塊を直視下で摘出する方法が広く行われている。

6)後側方固定術(PLF:posterolateral lumbarfusion)(図6e)
・腰椎椎間板ヘルニアで、椎間板変性が強く、不安定で椎間がぐらつくために腰痛が生じると考えられる場合や、再発ヘルニアの手術で椎弓切除が大きくなる場合には、椎弓の後外側から横突起に骨移植を行い、腰椎を固定させる。
・椎弓根にスクリューを刺入して、ロッドまたはプレートで固定する場合(インスツルメント使用)と単独で行う場合がある。
インスツルメントを使用した場合には、早期に離床できるという利点もあるが、スクリューによる神経の損傷や異物に対する感染の危険性もある。

7)後方椎体間固定術(PLIF:posterior lumbarinterbody fusion)
(図6f)
・腰椎の不安定性に加えて、椎体が前方や後方に極度にすべりを生じる脊椎すべり症や椎弓の一部に骨折が生じている、いわゆる脊椎分離症に椎間板ヘルニアが合併した場合に行われる。
後方から、神経根と脊髄硬膜を片側に避け、椎間板スペースに植骨やケージを打ち込んで、椎体と椎体を骨癒合させる。
通常、インスツルメントを併用するが、神経根圧迫による障害や感染を生じる危険性がある。

《予後》
・脱出したヘルニアは自らの貪食細胞により、吸収され自然消退してしまうことが多く、90%は2~3ヶ月で症状が軽快する。
しかし、一度激烈な痛みを経験すると、再発の恐怖から軽い痛みやしびれに対しても過剰な反応を示すことが多い。
・手術療法に比較して、保存療法ではしばらくのあいだ、腰部、頸部の鈍痛を残すが、1年経過すれば症状に差はみられない。
・3ヶ月以上保存療法をしても無効な場合には、手術療法を考えたほうがよい。
・腰椎椎間板ヘルニアの手術をした場合に、10年間で10~20%の再発率が認められる。
これは、体質的に椎間板が変性しやすいためと、労働内容が腰椎に負担を強いることが原因と考えられる。
したがって、治癒後も腰痛体操や日常生活の改善が必要である。

《観察ポイント》
①急性腰痛時の安静姿勢
・側臥位で股関節、膝関節を軽度屈曲させて臥床すると楽になるが、仰臥位で臥床する際には、クッションや毛布で膝を軽度屈曲させて坐骨神経の緊張をゆるめるとよい。ときには、腹臥位が楽なこともある。
②疼痛の持続による不安感への援助
・椎間板ヘルニアは圧迫があっても炎症が沈静化すると、強い腰痛は軽快してくる。
しかし、いたずらに疼痛が持続すると、痛みへの不安感から疼痛に対して過敏な反応を示し、患者自身が過剰な安静を行おうとする。
この状態は、廃用性の筋萎縮や筋肉の緊張を高め、痛みの軽減を遷延化させる原因となる。
したがって、早期より適切な消炎・鎮痛薬や抗うつ薬を使用して疼痛軽減に努め、腰痛体操などの運動療法や歩行を行うように指導する。

③入院牽引の準備
・牽引を行う場合に牽引の方向を誤ると疼痛が増強することがある。
適切な牽引を指導し、痛みが増強した場合には一時中止し、牽引の目的を説明し、十分納得したうえで行わないと、患者の信頼を失うことになる。

④適切な起床動作の指導
・急に仰臥位のまま腹筋で起きようとすると痛みが生じる。
1)側臥位となって背筋や腹筋に影響がないように、下になった肘をついて上体を起こす。
2)腹ばいとなって、両腕でゆっくりと持ち上げるように起き上がる。

《手術療法時の援助》
*看護のポイント
(1)疼痛に対する適切な援助
(2)体をひねらない(捻転させない)体位変換
(3)歩行訓練と日常生活の指導

①術前準備
1)不安の軽減:手術そのものの不安と、術後の安静度に対する不安の軽減
2)安静デモストレーション(模擬訓練):臥床安静期間、歩行開始までの期間(食事摂取、床上排泄、洗面、コルセット装着法、起き上がり方など)

②術後の観察
1)知覚障害・筋力低下・循環障害など頻回にチェック
2)ドレーン排液:血性または淡黄色(無色透明な髄液の場合、脊髄硬膜の損傷の可能性があるので、医師に迅速に連絡する)
3)疼痛・創痛の有無
4)術後合併症の有無

③脊椎の安静
・体位変換が許可されるまで仰臥位とし、体位変換に関しては腰を捻転させない
・腰椎のインスツルメントを用いない固定では、移植骨の脱転を予防するために体位変換を慎重に行う。
・単純な後方ヘルニア摘出術や頸椎の椎弓形成術では、患者の疼痛軽減のために体位変換を行っても支障はない。

④臥床状態での食事
・上半身が挙上できないことが多いので、側臥位で食事を行う。
・ご飯をおにぎりにしたり、鏡の設置、食事介助を行う(体位変換が可になれば、側臥位で摂取可能)

⑤歩行訓練の援助
1)起立性低血圧の観察:臥床患者が最初に起坐になるとめまいを起こす可能性が高い。
2)腰部安静:コルセットやカラーを必ず装着し、腰を伸展して歩く。
3)リハビリ:床上安静時から、筋力アップや、下肢の底屈・背屈運動などを行う。

⑥退院指導
1)姿勢や腰に負担をかけない方法の指導
2)コルセットの中断を自己判断しない
3)標準体重の維持疼痛・創痛の有無
4)腰痛体操:支柱の動きを柔らかくし、縮んだ筋肉や靱帯を引き伸ばし、腹筋・背筋・殿筋を強化する(術後2ヶ月は避ける)